湯布院 ジャズとようかんのジャズ羊羹 classic 湯布院 ジャズとようかんのジャズ羊羹 classic

美味しいお供え

[大分県]
湯布院 ジャズとようかんのジャズ羊羹 classic

Culture
2022.8.12

一緒に食べた思い出の味、旅先で見つけた小粋なお菓子。今日はおいしいお供えとともに、お仏壇に手を合わせませんか。

あの時の
ジャズピアノ

いつもハキハキと気持ちよく、
食べるものと着るものには
気を遣っていた妻。
3人の子どもを育てる
忙しい毎日でも、
「食卓は賑やかなほうが
いいでしょ」と、
テーブルには必ず何品かの
小鉢が並びました。

いつもはクールな妻でしたが、
時折、上機嫌で鼻歌を
歌うことがありました。
娘が学芸会で
大きな役をもらった時、
新しい洋服を買った時。
台所から、ささやかな鼻歌が
聞こえてきました。
歌うのは、
私が初めてプレゼントした
レコードの曲。
静かなジャズのピアノ曲です。
それを聴くたびに私は
じんわりあたたかい気持ちに
なったものでした。

秋に、娘家族がとっておきの
お菓子を持って帰ってきました。
鮮やかな赤いゴムを外して
黒い箱を開けると、
中に入っていたのは、
ピアノの鍵盤をあしらった
お洒落なようかん。
「お母さん、いつも料理しながら
鼻歌歌っていたじゃない?」
小さく切り分けて
お皿に盛り付けると、
深い茶色の断面に
大きないちじくが覗きました。

娘家族を見送った後、
静かになった部屋で
久しぶりに開けたワインのボトル。
昔のようにテーブルに
2つのグラスを並べて
ようかんを口に運ぶと、
なめらかな舌触りの中で
いちじくがプチプチとはじけ、
黒糖の上品な甘みとともに
いちじくの濃厚な味わいが
広がりました。

娘たちは、
妻が歌っていたメロディーが、
私が贈った曲だとは
知らないでしょう。
私たち2人の大切な記憶に
娘の新しい記憶が重なって、
積もっていく。
その繰り返しで思い出は、
もっとあたたかく、
もっとずっしりとした
質量を帯びてくるもの
なのかもしれません。

深みのある上品な味わいと、
甘酸っぱさ。
ようかんの白い鍵盤を眺めながら
大切な記憶を慈しむとき、
私はそんなことを思うのです。

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