西表島の節祭(シチ) 西表島の節祭(シチ)

日本の祈り

[vol.3]
西表島の節祭(シチ)

Academic
2022.8.26 Illustration:Makoto Motomura

日本各地に伝わるお祭りや儀式、多様な祈りの姿をたどって。祈りのあり方を見つめる、空想の旅へ出たいと思います。どうぞ皆さまもご一緒に。自分らしい祈りのかたちを探しに行きませんか?

飛行機とフェリーを乗り継いで訪れたのは、沖縄県竹富町・西表島。この島で約500年前から受け継がれてきた神行事が、「節祭(シチ)」です。

「節祭」が行われるのは、旧暦10月前後の己亥(つちのとい)を吉日として3日間。農作物の収穫に感謝し、来年の豊作を祈願する、節替りの正月儀礼です。神行事として昔から特別なもので、子どもからお年寄りまで、集落をあげて催されます。

海の彼方にある神々の国「ニライカナイ」から神さまが訪れ、幸せや豊穣をもたらすという信仰が伝わる沖縄の島々。西表島の租納・干立の「節祭」では、2日目に「世乞い(ユークイ)」と呼ばれる、五穀豊穣の世をもたらす神を迎える神事が行われます。旗頭を立て、神を迎えるための舟漕ぎ、ヤフヌティ(櫂踊)、棒術、獅子舞、ミリク行列、アンガー踊りなどが奉納されます。

西表島の新年を迎える賑やかな伝統

「節祭」の初日「年の晩(トゥシヌユー)」は、各家庭で年をおさめ新年を迎える準備をする日。海岸で拾った珊瑚のかけらを家の内外にまいて清め、柱や家財道具、農機具には魔払いのツル草を結びつけます。この夜、各家では「シチフルマイ」という精進料理を食べ、家内安全、家族の無病息災を喜び、翌日から始まる新しい年を迎える準備をします。

旗と装束のイラスト

2日目「世乞い(ユークイ)」は「節祭」のメイン。五穀豊穣の世をもたらす神をお迎えする儀式です。早朝のドラの音を合図に租納集落の人々はスリズ(集会場)に集合し、華やかな衣装をまとった参加者たちは3本の大きな旗を先頭に、唄を歌い踊りながらゆっくりと浜へと歩を進めます。

まず浜に入場するのは、舟漕ぎに参加する舟子たちの行列。太鼓の音とともに勇ましい「ヤフヌティ」(櫂踊)を披露します。次に入場するのは黄色い衣を着け、大きな福耳の仮面をかぶったミリク様が率いる「ミリク行列」。「ミリク節」の歌声や太鼓、三味線の音とともに、色鮮やかな伝統衣装をまとった参加者たちがミリク様を招きいれます。続いて踊り子の行列が入場すると、浜は一段と賑やかな雰囲気に。

干立地区の「ミリク行列」には鼻の高い仮面にブーツをはいた「オホホ」が登場することが特徴です。気を引こうとお金をばらまいてみせたり、オホホーと声をだしながらユーモラスな動きを見せたりして、会場を盛り上げます。

オホホ
祖納の様子
舟漕ぎの様子

舟は海の彼方から幸を運ぶ

沖から浜までの競漕は「海の彼方から幸を運んでくる」という意味の神事。浜で待つ女性たちはドラや太鼓の音に合わせて踊りながら声援を送り、舟が戻ってくると、勝敗に関わらず海から持ち帰った幸を喜びあいます。舟漕ぎが終わるとミリク様が団扇をゆっくりと振りながら踊り、続いて女性たちによる「アンガー踊り」が披露されます。その後も狂言、棒術の演舞、獅子舞など、さまざまな芸能が奉納されます。

再び歌いながら集落に戻ると、「ユークイ」は終了。日が暮れるまで、ドラや太鼓の音、美しい歌声が響き渡ります。翌日には、井戸で水恩感謝の「止留式(トドメ)」を行い、盛大に行われた「節祭」を終えます。

舟漕ぎのイラスト

山の幸・海の幸への感謝を、競い、歌い、踊り、全身で表現する西表島の「節祭」。島民たちに引き継がれてきた文化を守り次の世代につなぐため、1991年には「重要無形民俗文化財」に認定されました。

「節祭」の日には集落出身者が大勢里帰りして、祭りを盛り上げるといいます。島を離れても、海や山といった自分たちの原点を見つめ、代々受け継がれてきた伝統を次の世代につないでいく島の人々。その姿を、10年先、20年先にも変わらず見られることを祈って、私たちの旅は続きます。

Inori Information

  • 西表島の節祭(シチ)

    西表島の節祭(シチ)

    会期:旧暦9~10月の己亥(つちのとい)を
    吉日として3日間
    場所:沖縄県八重山郡竹富町西表
    前の浜(干立地区)・前泊浜(租納)
    見学:2日目ユークイのみ可能
    問い合わせ:take-kan@guitar.ocn.ne.jp
    (竹富町観光協会)
    ※2021年は関係者のみで開催。

    オホホ

    オホホ

    悲しき道化。
    外国人との説があるが
    詳しくはわからない。
    [写真提供:竹富町観光協会提供]