日本の祈り
[vol.2]
木幡の幡祭り
Academic
2022.7.15 Illustration:Makoto Motomura
日本各地に伝わるお祭りや儀式、多様な祈りの姿をたどって。祈りのあり方を見つめる、空想の旅へ出たいと思います。どうぞ皆さまもご一緒に。自分らしい祈りのかたちを探しに行きませんか?
最初に訪れるのは、福島県の旧安達郡東和町・木幡。2005年に二本松市、安達町、岩代町と合併し、今は二本松市と呼ばれています。
この地で950年以上前から続いているのが、5色の旗をはためかせて木幡山をめざす登拝行事「木幡の幡祭り」です。毎年12月の第1日曜日に開催されます。幡行列の美しさで知られる「木幡の幡祭り」ですが、本来は成人儀礼の意味合いが強いものでした。
ホラ貝の合図で進む、五色鮮やかな幡行列
祭りの前夜、行事に初めて参加する「権立」(ごんだち)と呼ばれる18歳前後の青年たちは、隠津島神社や各堂社(現在は当番の堂社が実施)に集まり「水垢離(みずごり)」と呼ばれる行事を行います。白ハチマキに下帯のみの姿になって「えーさ、えーさ」の掛け声の後、手桶で冷水を勢いよくかぶり、穢れを落として身を清めます。
そして、祭り当日。参加者たちは白装束を身につけ、100本以上の五反幡をなびかせ、ホラ貝を響かせながら列になって練り歩きます。行列は隠津島神社の氏子である木幡の9つの地区から出発し、阿武隈の山間の道をぬって羽山神社に立ち寄り、最終的に木幡山の隠津島神社にたどり着きます。
権立は白装束ではなく、母親が着た襦袢か赤地の着物を身につけ、男根を象った太刀を肩に、袈裟を首にかけた姿をするのが習わし。これを着ることで穢れを払い、一人前になることができるといわれています。
成人になるための3つの儀式
途中、権立の一行は列を離れ、ひと足早く羽山神社を目指します。羽山神社の少し手前にある胎内くぐり岩で太刀と袈裟を納め、「胎内くぐり」という成人儀式を行います。この儀式には、「権立よばり」「食い初め」「参拝」があります。
「権立よばり」とは、小銭をくわえて胎内くぐり岩の割れ目をくぐり、小銭を落としてそっと手で拾うというもの。岩をくぐり抜けた後は全員で岩の前に並び、岩の上と下に先達が立って問答を行います。その後、険しい山を登って羽山神社に到着すると、先ほどの小銭を渡し、粥小屋で乳(粥)をご馳走になります(食い初め)。最後に、大岩に幡を立てかけ、梵天と丸餅を神社に供え、祝詞を唱えて「参拝」するのです。
権立は、1年目には背拝み、2年目に横拝み、3年目に正面を向いて拝むのが習わしでした。しかし現在では省略され、一度に3方向に向かって拝んでいます。これらの儀礼を経ることで、権立はようやく大人になることができます。
「木幡の幡祭り」は、青森県・岩木山の「神賑祭」、長野県・別所温泉の「岳の幟」とともに「日本三大旗祭り」のひとつとされています。ホラ貝の音色に導かれて、白装束の男たちが颯爽と山道を行く幡行列はこの地で生まれた男たちの通過儀礼であり、12月が来たことを知らせる恒例行事でもあります。晴れて成人となった青年たちを称えるかのように、冬空に舞い上がる五色の幡。その様子を生で見られる日が待ち遠しいですね。
Inori Information
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木幡の幡祭り
会期:12月の第1日曜日
2022年12月4日(日)開催予定
場所:福島県二本松市
木幡住民センターグラウンド(出発地)・
隠津島神社(目的地)
見学:可能
問い合わせ:
tow.chiikishinko@city.nihonmatsu.lg.jp
(二本松市役所 東和支所地域振興課)
※2021年度は規模を縮小して開催。
出発地を変更し短縮経路で登拝した。餅つき
小学校の校庭では、
幡を持って走る速さを競う「幡競争」
「木幡音頭踊り」「東和太鼓」、
餅つきなどが行なわれる。
[写真提供:東和観光協会]