日本の祈り
[vol.1]
三戸のオショロ流し
Academic
2022.6.3 Illustration:Makoto Motomura
日本各地に伝わるお祭りや儀式、多様な祈りの姿をたどって。祈りのあり方を見つめる、空想の旅へ出たいと思います。どうぞ皆さまもご一緒に。自分らしい祈りのかたちを探しに行きませんか?
京浜急行線の三崎口駅を降り、汗を流しながら歩くこと約25分。三浦市初声町三戸にあるのどかな海岸で、国の重要無形民俗文化財である「三戸のオショロ流し」は行われます。
オショロとは、オショロサマ(=御精霊様)のこと。お盆にお迎えした先祖の霊を地域の子どもたちが中心になってオショロ船に乗せ西方浄土へ送る行事です。江戸時代に始まったとされるこのお祭りですが、本当のところは定かではありません。
皆で準備し、鮮やかに送り出す三戸のお盆
8月13日、三戸の上谷戸・北・神田地区の家庭では、祭りの準備が始まります。まずは仏壇の左右に竹を取り付けて縄をはり、精霊棚(盆棚)を作ります。そこに麦わらで作った「オショロサマ」の人形を祀り、なすを賽の目に切った「オモリモノ」や、すいかなどの「シナモン」、ご先祖様が行き来する乗り物としてなすときゅうりの精霊牛馬をあげます。これが三戸のお盆の光景。かつては、時期が来ると集落の店には「オショロサマ」が売られていたそう。お墓にも精霊棚が作られ「オモリモノ」が供えられます。
8月16日のオショロ流し当日、セイトッコと呼ばれる小学1年生から中学3年生の男子は朝の3時からお墓のオモリモノを集めて海岸に運びます。それが終わり「オショロサマ、こして(作って)けぇやっせ!」と叫びながら町を練り歩くと、大人たちが次々と砂浜へと集まってきます。
大人たちは竹と麦わらを使って5mほどのオショロ船を作り、各家庭から集めたオショロサマを青竹に刺して船を飾ります。鮮やかなオショロサマと花や短冊、白提灯に彩られた色とりどりのオショロ船は、どこか大漁旗を掲げた漁船のよう。「地域の皆でにぎやかに送り出したい」という人々の願いが込められているようです。
つないでいく海と地域の人々のご縁
オショロ船の先端に付けられたロープの先には、ビート板を持ったセイトッコたち。午前8時、線香が焚かれ、読経の声が浜に響き渡るなか、いざ出航!
セイトッコたちは泳いでオショロ船を引っ張り、先祖の霊を西方浄土へ送り出します。海とともに育った少年たちは、泳ぎが得意。とはいえ、風もあり、船は重く、なかなか前に進みません。この日のために特訓してきたセイトッコたちの姿に、大人の男たちもかつての自分の姿を重ね合わせているのでしょうか。防波堤の先まで進むと、無事に精霊を見送ったのか、セイトッコたちも戻ってきます。
かつてはそのまま沖の方まで引っ張り、船は風で鎌倉方面まで流されていたそう。現在は並走する漁船が沖でセイトッコたちを収容すると、オショロ船も引いて戻るようになりました。
海とともに生きる町で、代々受け継がれてきた「三戸のオショロ流し」。子どもたちの周囲に地域の大人が集い、力を合わせて船を出す儀式に、ご先祖様が繋いでくれた地域の人々のご縁を感じます。今では子どもの数が減ったことから、船の数も減り、セイトッコがいない地域も出てきたそう。それでもなんとか次世代につないでいこうと、時代に合わせたアレンジが加えられています。
船に乗った故人や先祖を子どもたちが送り届ける。その姿には、地域全体で支え合い、時代を紡いでいこうという世代を超えた時間の流れを感じます。故人や先祖への感謝と、次の世代を担う子どもたちへの責任。海を見守る大人たちはそんなことを考えているのでしょうか。
来年もまた華やかで個性あふれるオショロサマがこの地を賑わしますように。そしていつまでもこの海で、人々の祈りがご先祖様に届き続けますように。いつか現地に行ける日まで、遠くからそう願っています。
Inori Information
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三戸のオショロ流し
会期:8月16日
2022年8月16日(火)開催予定
場所:神奈川県三浦市初声町三戸
三戸海岸
見学:可能
問い合わせ:
kyoui0301@city.miura.kanagawa.jp
(三浦市役所 文化スポーツ課)
※2021年はオショロ船を作成せず、
沖へ舟を曳く行事も中止。
お盆飾りや海岸での供養のみ実施。オショロ
サマ麦わらを長さ20cm、
幅4cmほどに切って束ね、両端に
オガラ(皮をはいだ麻の茎)をさして
色紙をギザギザに切った飾りをつけ
美しく仕立てた飾りもの
[写真提供:三浦市]