ネアンデルタール人の偲びかた ネアンデルタール人の偲びかた

偲ぶことを考える

ネアンデルタール人の偲びかた

Essay
2022.4.22 Illustration:Akihito Ishisone

古来より人は、死者を弔い偲んできた。それは国境問わず、それぞれの風土や民度をベースとし、様々な手法で定着し受け継がれている。なぜ人は、偲ぶのだろうか。なぜ人は、死者を想うのだろうか。今連載では、そんな人類独自の根源的な営みを、様々な実例や解釈を元に紐解いていきたい。

今から推定五〜六万年前の
旧石器時代、
ネアンデルタール人は洞窟の中で
暮らしていたそうです。
その暮らしぶりは、
よくわかっていないところも
多いようなのですが、
石を加工した道具で
狩猟などを行っていた様子から、
現代の暮らしとは比べようのない
原始的なものだったと
考えられています。

ネアンデルタール人の偲びかた ネアンデルタール人の偲びかた

1960年代にイランの
シャニダール洞窟で、
アメリカの
考古学者R・S・ソレッキ博士は、
ネアンデルタール人の
化石とともに、ノコギリソウや
ヤグルマギクなど数種類の花粉を
大量に発見しました。
周辺の花粉の量と比べ、化石付近の
花粉の量が極端に多いことと、
これらの花が昔から薬草として
扱われていることから、
ソレッキ教授らは
「ネアンデルタール人には
死者を悼む心があり、
副葬品として花を遺体に添えて
埋葬する習慣があった」
との説を唱えたそうです。
このシャニダール洞窟の発見には、
諸説あるようですが、
旧石器時代には他にも
死者を弔う為に埋葬されたとされる
化石が見つかったこともあり、
少なくとも数万年前の
人類の祖先とされる人々が
死者を弔っていたということは
間違いないようです。

ネアンデルタール人の偲びかた ネアンデルタール人の偲びかた

文字もなく、宗教もない時代、
人としての最低限の営みが
行われていた時代、
その暮らしぶりは
全く想像ができませんが、
倒れていった仲間に
そっと花を手向けた
ネアンデルタール人の背中は、
何故か鮮明に想像ができる
気がします。
それは、そのまんなかに
現代の人と同じ「人を思う心」が
あるからだと思うのです。