日本の祈り
[vol.6]
佐渡の春駒
Academic
2022.12.30 Illustration:Makoto Motomura
日本各地に伝わるお祭りや儀式、多様な祈りの姿をたどって。祈りのあり方を見つめる、空想の旅へ出たいと思います。どうぞ皆さまもご一緒に。自分らしい祈りのかたちを探しに行きませんか?
雪に覆われ寒いイメージの新潟の冬。しかし、対馬暖流の影響を受ける佐渡は本州より降雪が少なく、お正月は穏やかな日が続くこともあります。
佐渡の、伝統的なお正月の行事といえば、「春駒」。
リズミカルな団扇太鼓に、シャンシャンシャンという鈴の音、いかにもめでたく調子を刻む歌声…。派手な衣装に面をつけた一行が、鈴と団扇太鼓のリズムに合わせて歌い踊る春駒は、お正月気分をより高めてくれます。
歌い踊る正月の門付け芸
佐渡の「春駒」は、「はるごま」ではなく「はりごま」と呼ばれる、お正月に行われる門付け芸。
張り子で作った馬を腰につけて騎乗しているように見せて踊る「男春駒」と、馬の首の形の手駒を手に持って舞う「女春駒」があります。
江戸時代の文献には、年中行事として記載されている「春駒」。現在の佐渡・野浦集落では、元日に「女春駒」が行われます。家々をまわる春駒の一行は、踊り担当の「舞方」が春らしい柄の派手な着物を着て顔の歪んだ木製の人面をつけ、団扇太鼓を叩く「地方」が奏でるリズムに合わせて「めでた踊り」や「ご祈祷踊り」を披露。舞方が手にする馬の首を模した「手駒」には鈴がついていて、団扇太鼓のリズムと合わせて、賑やかに歌い踊ります。
ひと目でめでたいとわかるような楽しい踊り。一行を迎える家の人々も、自然と笑顔になり、一緒に一年間の無病息災と幸運を祈願します。
にぎやかで楽しいほど願いが叶う
春駒の門付けは、「予祝」(よしゅく)の祈祷だといわれています。予祝とは「前もって祝うこと」。「めでたいことがあったから祝う」のではなく、「めでたいことが起こったとして、先に祝う」のです。
「実際の願い事が叶って、歓びお祝いをしている姿」を予め行うことで、祈願成就を引き寄せる「予祝」には、祭りや伝統芸能の本来の姿である呪術的な意味合いが色濃く感じられます。現在でも、スポーツ選手が“試合に勝って喜んでいる姿”をイメージして試合に臨むことが知られていますが、これもある意味では「予祝」なのかもしれません。
お祭りや伝統芸のなかにある、人々の祈り。賑やかで楽しい「春駒」は、現代を生きる私たちにも大きなヒントになると感じました。
Inori Information
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佐渡の春駒
会期:正月
場所:新潟県佐渡市
(浜梅津集落、野浦集落など)
見学:可能
コロナ禍の対応:
2021年はコロナのため中止。
2022年は開催。門付け
その年の豊作や大漁などを願う
予祝として正月などに行う門付け芸。
時にはアドリブも交える
その口上にも注目。
[写真提供 : 佐渡芸能アーカイブ]