祈りの道具の職人と考える素祈 ③ 祈りの道具の職人と考える素祈 ③

会いたい人に会いに行く|能作克治

祈りの道具の職人と考える素祈 ③

Interview
2022.7.8 Text:Yuko Hanaoka

WEBマガジン「素祈」を運営する株式会社まなかの代表・宮嶋が、会いたい人に会いに行く!
純粋に興味を持った人に会いに行き、「素祈」という習慣をもっと豊かにするために、お話しを伺う連載企画です。
第一回を記念して、まなかと深いつながりのある鋳物メーカー、株式会社能作(富山県高岡市)の代表取締役社長・能作克治さんに会いに行ってみました。

宮嶋能作さんは、毎日お仏壇に手を合わせますか?時間取れます?

能作実は……毎日はできていません。盆と正月くらいはしっかりと手を合わせて、となりがちです。道具を揃えて、水を替えて、整えて、花を活け替え、火をともし……と「やらなきゃいけないこと」が多いと、つい、日常で後回しにしてしまいますね。

宮嶋社長は全国飛び回ってらっしゃいますしね。やる「決まり事」として準備が多いと負担になってしまうでしょう。どんな形式なら毎日、やれそうですかね?

能作究極、持念仏のような、ミニマムで「本当に想えるもの」が、ポンと身近に、常に置けるなら、今の自分でもすぐ毎日祈れるだろうと感じてます。「それだけでいい」くらいのもの。

祈りの道具の職人と考える素祈 ③ 祈りの道具の職人と考える素祈 ③

宮嶋ああ。わかります。身近に置けて、手を合わせたくなるもの、ですよね。それが故人の大事にしていたものだったりするのでも、いいだろうと私も思います。

能作祈る気持ちは究極、物なんかなくたってできると思うんですよ。でも、対象物、道具の力を借りないと想いを願い託し続けられるかどうかというと難しいですね…。やっぱり道具や物の力は大きい。

宮嶋能作さんにどうしたら毎日手を合わせてもらえるスタイルや道具を提案できるか。これは、まさにまなかの宿題ですね。お墓参りはどうですか?ご実家を出られていて、お仕事も忙しいと隣県とはいえ帰省も大変ですよね。

能作実家を離れてしまったけれど、年に1~2回は足を運んでます。気にかけていますし、手を合わせるって気持ちの上でやっぱり自分に必要なことなんです。

宮嶋祈ること、偲ぶことって、要するにそういう気持ちですよね。お客様のリアルな姿を考えて、道具そのものや、使い方、スタイルを提案していきたいんです。だからこそ、できる時、伝統的に伝わっている方法でも、したいと思える方法で続けられればいいし、日常では「こうしなくちゃいけない」だけでない。気持ちのままに手を合わせられる方法が提案できれば、と思います。

能作時代が変化しても、特別な思い入れがある人やもの、身近な人に対しては亡くなったからといって想いが消えるわけじゃない。むしろ、強まる気がしてますよ。それをどう表現してもらえるか。大事にしてもらえるか。準備や手間が必要なことだけじゃない、簡単に気軽にできる方法があっていいはずですよね。

宮嶋簡単だからって悪いわけじゃないですしね。

能作そう。なにより、続けられることが大事。

祈りの道具の職人と考える素祈 ② 祈りの道具の職人と考える素祈 ②

宮嶋想い続ける事で、故人との関係や想いも繋がると思うんです。だから、大変だから止めちゃうんじゃなく、簡単でも続けてもらう方がいいなと私も思います。なにか祈りたくなるようなこと、誰かを想うことって、自然な感覚、感情だと思うから……。能作社長にとって、祈ること、偲ぶことってどんな感覚ですか?

能作私は、祈るとか手を合わせる時って、先祖への感謝はもちろんなんですけど、「自分の未来を描いている」んだと思っています。「こういう世界にいたい、こう在りたい」という未来を想っている。過去に祈る人っていないんじゃないかと思う。みんなそうなんじゃないかな。

宮嶋故人を想う時でも、生前の思い出を偲びつつ、今やこれからも想っているっていうことですしね。見守っててほしい、というのもこの先の在り方に故人も一緒に居て欲しいって願いですよね。

能作過去に想いを馳せると、ろくなことは無いですから(笑)。仕事でも話しますが、選ばなかった正解なんかない。よく「if」の世界のような話があるでしょう。でもね、そんなものはないと思ってますよ。選んだ方が正解。選んだから次の枝分かれができて、今に進んでいるんですから。過去にだけ祈る、願うなんてことは無いだろうなって。

宮嶋そうやって未来を描くような、想いや祈りの時間を作ることって、どんな影響が生活に生まれそうでしょうかね。祈るだけで叶うとかそういうことじゃなくて。毎日じゃなくても、習慣にそうした未来を描く時間が持てたら……。

能作習慣にできれば、きっと良いリズムになるでしょう。眠って夢を見るのと同じような…整理にもなるだろうと思ってます。過去と未来と自分を繋ぐ時間で、過去に執着しないというか。囚われないための時間にする。過去起きた事、成功も失敗も悪いことじゃない。なにもしないことが一番悪い。なにもしないで、悔やんでいても、変わらないし、より良い方向へ進むわけじゃない。失敗したって、1つ前に進んだと思う。それが未来を創っている。

祈りの道具の職人と考える素祈 ③ 祈りの道具の職人と考える素祈 ③ 株式会社能作社長・能作克治さん

宮嶋祈りや供養に限らず、その考え方は素敵ですね。そうか。物を作ってお客様に届ける時、お客様が買ってくださっているものって「この商品を買った後の未来」ですね。100円均一ショップの風鈴でなく、能作の風鈴が鳴る生活。その生活が欲しいな、って。暮らしにこの商品がある、自分の未来の姿。全部の商品やサービスってそうですね。お客様の未来を創る道具やサービスを創っているんですね。

能作そうですね。いいですね、「未来を創る道具やサービス」って言葉、カッコいいな〜。仏壇だって、同じだと思ってますよ。仏壇に向き合う時、私たちは先祖を敬って、過去を振り返るだけじゃなく、未来を想っているはずなんです。

宮嶋遺された人たちは絶望や喪失の哀しみの中からご供養や偲ぶことが始まるかもしれないけれど、未来を想い、未来に生きることで亡くなった人も一緒に、想いの中に存在している。未来に祈っているという視点、そういうことかもしれないです。

能作弊社でもそういう祈る習慣を繋げる道具を、伝統技術とともに未来に遺していきたいですね。

宮嶋道具単体で考えても、遺された家族にもまた使っていただくことで、未来に「この道具で祈ること」が続いていくことまで届けられたら嬉しい。時代が変わっても、変わっていくからこそ、人の心の中にある想うこと、祈ることを、身近な習慣に再提案する。まずは能作さんのように忙しい方にこそ、毎日、手を合わせたくなる、合わせられるような道具や方法がなにか……。もっと深く取り組んでみます。今回はありがとうございました。

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Profile

  • 能作 克治

    能作 克治(のうさく かつじ)

    株式会社能作・代表取締役社長、
    金属溶解一級技能士。
    1958年福井県生まれ。
    大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、
    大手新聞社カメラマンを経て能作に入社。
    2002年より同社代表取締役社長に就任。
    2016年藍綬褒章を受章。

    株式会社
    能作

    1916年創業。
    伝統工芸である鋳物メーカー。
    直営店全国13店舗を抱える
    能作ブランドは、
    「能作の錫製品」として
    富山県推奨とやまブランドの
    認定をはじめ日本デザイン賞、
    グッドデザイン賞など
    多くの賞を受賞している。
    https://www.nousaku.co.jp/