会いたい人に会いに行く|能作克治
祈りの道具の職人と考える素祈 ②
Interview
2022.5.27 Text:Yuko Hanaoka
WEBマガジン「素祈」を運営する株式会社まなかの代表・宮嶋が、会いたい人に会いに行く!
純粋に興味を持った人に会いに行き、「素祈」という習慣をもっと豊かにするために、お話しを伺う連載企画です。
第一回を記念して、まなかと深いつながりのある鋳物メーカー、株式会社能作(富山県高岡市)の代表取締役社長・能作克治さんに会いに行ってみました。
宮嶋能作さんは、富山県の高岡生まれ高岡育ちなんですか?
能作自分は実は、福井県なんですよ。
宮嶋えっ。私も福井出身です。山中温泉が地元です。
能作近いですね、自分は三国のほうです。長男ですが家を出て、故郷を離れて働いているので社会背景の変化で従来のままのやり方が難しいこと、困ることがあるのはよくわかります。
宮嶋ご実家のお墓とか。
能作そう。私は前職、大阪で新聞社勤めをしていたんです。実家は能作と全く違う仕事でした。結婚相手の実家が能作で、婿入りして家業に就きました。
宮嶋今、ご実家はどうなさってますか?
能作母が90代ながら健在でいてくれていまして、実家の墓や家をまだ護ってくれています。1人いる妹も嫁いでいますし、東京で暮らしています。まさにお墓や仏壇を次はどうするか?は身近な課題なんです。無縁仏にはできませんしね。
宮嶋能作家としても継承者ですよね?長く続くお家かとおもいますが、お仏壇とかどういうものですか?
能作会社としては自分が四代目ですが、家としては……どうだろう、もう何代なんだろう?大きくて立派な仏壇があり、古くからのいい仏具も揃っています。こういう仏具を作る伝統産業の仕事をしていて、そうした代々の仏壇があっても、現代の流れ同様です。親戚一同集まる機会が減って、彼岸や盆になにかできるかという程度になってます。
宮嶋離れて暮らす時代になって、生活をともにした経験がある小規模な家族関係だけが想う範囲というか、仏壇で祈る対象になる感覚はありますよね。都心が特になんでしょうか。
能作核家族化は地方でも感じますね。高岡市でも人口は減っているのに、家の戸数は増えているそうです。それぞれが世帯を持ち、家が別だったり、若い世代は都会へ出て行って仕事や暮らしを持つ流れです。
宮嶋能作さんは高岡市という地域への取り組みにも力を入れてらっしゃいますよね。どんな想いで、どういったことをされてるんですか?
能作地域貢献は非常に重視してます。「もの」をつくるだけでなく、「こと」「こころ」を伝える観光事業も手掛けていて、本社のオフィスパークに見学できる工場、カフェやショップを併設しています。年間13万人ほど来場いただく場所になってます。
宮嶋13万人。それはもう一大観光スポットですね。
能作そこで意識していることは「独り占めしないこと」です。
宮嶋独り占めしない。具体的には?
能作自社施設のショップで、自社商品以外を扱ってません。富山の名産品のニーズがあっても置いていません。代わりにTOYAMA DOORSと名付けた観光案内を用意してます。そこに特産品やお土産物の案内のカードを並べてます。うちに来てくださったお客様にお土産を買う場所や立ち寄る先を見つけてもらって、足を運んでもらおうという試みです。1か所で用が全部済んでしまうのも、便利なんだろうと思うのですが、それじゃ観光産業は立ちいかなくなるとも思っています。地域全体の魅力を知ってもらって、色々な場所を観光してもらって、一回で回り切れなかったから次はここを目当てにまた来ようってなってもらいたい。
宮嶋いいですね。北陸新幹線も開通しアクセスも便利になって、北陸地方とかく金沢人気が高くなりましたものね。
能作高岡市内だけでなく、県内、また県を超えて福井とも連携しようと取り組んでます。新幹線のおかげで、せっかく遠くからいらしてもらえるのだから、石川の金沢だけでなく、富山・福井にも触れてもらえたら嬉しい。県が別だと遠いと思われるかもしれないですが、例えば高岡からも、福井の永平寺さんまで2時間かからないコースが提案できます。
宮嶋独り占めしないで、協力し合って全体の魅力向上、発展を目指す。能作さんは地域貢献に、どうしてそこまで思い入れを持って、実際に先頭に立って行動できるんですか?
能作地域は大事です。うちの会社に、営業というスタンスが無いから余計なのかもしれないんですが、地域の方があっての能作だと痛感してます。感謝しかありません。地域の方が県外の方に「うちの地元の能作っていう会社のものなんだ」とお土産や贈り物で紹介してくださって、高岡の鋳物、能作という存在を広めていただいてきました。こんなに強い味方はいません。
宮嶋地元の方も、地域の特産品、自分の街ならではの伝統工芸技術が、日常使いできてスタイリッシュなデザインの商品になっていれば贈り物に選びたくなるでしょう。なにより能作さんも、地元のために色々取り組んでくれている。せっかくなら能作のものを贈ろうって地元の人も想ってくれる。
能作本当にその循環のおかげです。愛していただいてこそ、まず地元の方に選んでいただける。だからこそ、地域を大事に、愛していきたいと思うし、愛していくことがまた愛されるきっかけにつながっている。幸せなサイクルなんです。これからいっそう、地方、地域の時代になると感じています。
宮嶋コロナで立ち止まって、今、ライフスタイルや価値をみんなが見直し始めてますよね。豊かさとか幸せとか、自分にとってそれがなんだろう、みたいな。道具の作り手側としてはお客様の価値、幸せにつながるためのものを生み出したいって想いがあると思うんです。能作さんが物づくりに込めている願いってなんですか?
能作人を幸せにしたい。能作の製品を使ってもらって、暮らしにうるおいを感じてもらいたいですよね。そういう幸せを届けたい。
宮嶋暮らしのうるおい、まさにそうですね。無くても困らない。でも、その道具があることで暮らしが少し豊かになる。それには買っただけで終わっては意味が無い。だから、暮らしの中で使ってもらう、日常で使い続けてもらうための提案をしたいですね。
能作仏具はまさにそこが重要でしょうね。
宮嶋自社のデザイン、道具に自信も誇りもあるけれど、それ以上に、祈ること、供養事を通して豊かな暮らしになるスタイルを提案したい。というのも、きれいごとじゃなく、この習慣や祈ること、想うことが無くなってしまったら、この国の良い文化や習慣がひとつ消えてしまう。それに、習慣が無くなったものに道具もなにも無い。と思うんです。
能作私は「人間は祈る動物だ」と思ってるんですよ。身近に不幸があった時には、祈らずにはいられないだろうことは想像がつきますよね。
宮嶋手を合わせて過ごす時間そのものが、豊かだと思うんです。子どもがそれを見て真似をして、いいところが続く。祈りの道具ってその時間や場所のためのものなんだろうなと。会ったことのない先祖は遠く感じても、身近な人だったらきっと自然と想う。だけどそのことって、死を迎えてからのことで、できれば日常で考えたくないですよね。
能作戦争で、とんでもない人数がいっぺんに亡くなって―――そこから今まで、どんどん社会が変わって、今は、とても死が遠くなりましたね。いいことですが、それもあって供養の場所、祈りの道具が小さくなっていっているのかもしれません。
Profile
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能作 克治(のうさく かつじ)
株式会社能作・代表取締役社長、
金属溶解一級技能士。
1958年福井県生まれ。
大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、
大手新聞社カメラマンを経て能作に入社。
2002年より同社代表取締役社長に就任。
2016年藍綬褒章を受章。株式会社
能作1916年創業。
伝統工芸である鋳物メーカー。
直営店全国13店舗を抱える
能作ブランドは、
「能作の錫製品」として
富山県推奨とやまブランドの
認定をはじめ日本デザイン賞、
グッドデザイン賞など
多くの賞を受賞している。
https://www.nousaku.co.jp/