祈りの道具の職人と考える素祈 ① 祈りの道具の職人と考える素祈 ①

会いたい人に会いに行く|能作克治

祈りの道具の職人と考える素祈 ①

Interview
2022.4.22 Text:Yuko Hanaoka

WEBマガジン「素祈」を運営する株式会社まなかの代表・宮嶋が、会いたい人に会いに行く!
純粋に興味を持った人に会いに行き、「素祈」という習慣をもっと豊かにするために、お話しを伺う連載企画です。
第一回を記念して、まなかと深いつながりのある鋳物メーカー、株式会社能作(富山県高岡市)の代表取締役社長・能作克治さんに会いに行ってみました。

宮嶋富山県高岡市が鋳物の街、仏具の産地としてここまで続いてきた理由って、どういうところにあるんでしょうか?

能作仏具作りについていえば、仏具には型というか定番のものがあったというのが大きいだろうと思います。ひとつのものを極め、同じパーツを作り続けていれば職人はご飯を食べられた。問屋があって、作る現場は部分的下請けです。

祈りの道具の職人と考える素祈 ① 祈りの道具の職人と考える素祈 ① 真鍮製品の製造の様子

宮嶋問屋さんが介在して、分業で担っていく。伝統産業では多い形式ですよね。

能作ところがですね。仏具を取り巻く環境も、大きく変わりました。そもそも売れなくなってきた。うちは仏具を中心にやっていたわけでなく、茶道具や花器だったり 、テーブルウェアを現在も多く扱っていますが、日用系のオリジナル製品になると作るロットが、昔の仏具注文よりとても少ないです。

宮嶋仏具と言ってもうちもオリジナルで、小ロット製造になってしまいます。なかなかメーカー直接で、新しい形の小ロットを引き受けてくれる業者さんがありませんでした。

能作まなかさんとは10年近くのお付き合いになりますね。

宮嶋能作さんがうちからの依頼を引き受けてくれたからこそです。数も少なく、大変なことだったかと思うんですが、新しいことに挑戦くださったのは、やはりものづくりがお好きだから?

能作それももちろんですね。自分自身、職人としても手を動かして作ることが好きというのがあります。この風鈴 は2000年過ぎ頃、デザインも自分でして発売しました。

祈りの道具の職人と考える素祈 ① 祈りの道具の職人と考える素祈 ① 響きとフォルムが魅力の風鈴

宮嶋デザインもご自身だったんですか!

能作最初はベルだったんです。それを東京のショップの方が「音がすごくいいから風鈴にしたらいいのに。売れますよ」ってアドバイスくださって。それで最初の製品を3種類風鈴にしてみたんです。どうしても4,000円超えてしまうんで、自分でも正直 「売れるのか?」って思いました。風鈴なんか、100円均一ショップでもあるのに。それが、売れました。今、種類も増えて、6,000円以上のものでも売れてます。

宮嶋「値段でなく、欲しいものかどうか」を重要視する人が増えてきてる気がします。

能作確かにそうですね。その流れはすごく感じます。

宮嶋風鈴、オリジナル商品を作ろうと思ったのは、自分たちで直接お客様に届けたかったからですか?

能作ええ。うちもどんな仕事をしても、自社の名前が出る事なく、問屋さんに言われた担当業務だけをやっている状態でした。業界構造がずーっとそれであたり前。ただそれだと、仕事の結果がどうかとか、評価や反応はわからない。作ったものが、どこで売られているのか、いくらで売られているのか、売れたのかどうかもわかりませんでした。

宮嶋そうか。いちはやくオリジナル商品を、自社名を出して取り組んできていたから、能作さんはうちのようなメーカーからの小ロットの相談に、対応できる経験をすでに持ってらしたんですね。それでも、うちの場合、「これまでにないものを作りたい」といった無茶なご相談が多いかと思うのですが、大変だったんじゃないでしょうか?

祈りの道具の職人と考える素祈 ① 祈りの道具の職人と考える素祈 ① 株式会社まなか社長・宮嶋

能作新しいことに挑戦できる機会はありがたいですよ。最初にまなかさんで鈴木啓太さんデザインのものを作れたのは、とても面白かった。デザイナーさんは思わぬことを言ってくるから、新鮮で、感覚に応える試行錯誤はやりがいも大きい。なにより好いデザインでしたね。

宮嶋ありがとうございます。高岡という地域全体でも、新しい仏具作りにも取り組まれていますよね。仏具そのもの、仏具作りの環境が変わったのはいつ頃から、どんなふうに変わったと感じます?

能作生活スタイルと、核家族化。これは非常に大きいと感じます。あとはセレモニーホールの台頭。セレモニーホールは、確かに楽だけど、荘厳さは不要になった。道具もそういうものになるのは当然の流れでしょうね。お葬式も昔はお寺でやっていましたが、そこで使う寺院仏具は全然違う。セレモニーホールの道具は楽で手軽で、値段もそうなり、道具も軽くなってしまったなと思います。

宮嶋ああ。それは確かにありますね。

能作福井の永平寺さんから修理を承ることがありますが、とんでもないものが届く。昔の仏具は本当にすごい。安全のため今は扱えないことになった材料のせいもあり、同じものを作れと言われても、もう作れません。高岡の新仏具だと、デザインと、使い方が従来のものとは全く違う「たまゆらりん」 がヒット商品にあります。おりんの役割である「音」も良いです。それに続くものはなかなか生まれませんね…。

祈りの道具の職人と考える素祈 ① 祈りの道具の職人と考える素祈 ① 株式会社能作社長・能作克治さん

宮嶋伝統そのままというわけにはいかない。伝統の技術を残しつつ、新しい提案をする必要がある。本当に、日本の産業工芸全体のテーマですね。

能作なんとかしないとという想いから、奈良の中川政七商店さんと岐阜の飛騨産業さんと、日本工芸産地協会を立ち上げて取り組んでます。もともとは中国から日本にもたらされて、定着して続いてきた工芸技術。もたらした側の中国では途絶えてしまっているものが多いんです。伝えた先の日本のものを買ったり、技術を求めに来る状況になっています。失ってしまうということは、そういうこと。

宮嶋そういう伝統技術を使ったオリジナル商品を通して、一般のお客様から直接反応が届くようになって、どうですか?

能作反応を見て真っ先に気付いたのは、作り手だとマニアックになってしまうんだな、ということです。説明ひとつ取っても、こちらには当たり前すぎること、こだわりやすごいと思うこと。これがズレて、伝わらないことが多いんだな、と。

宮嶋そうした説明や、商品を届けるようになって昔からの知恵と道具を求める人が増えて来たような気がしませんか?錫のぐい呑みって、お酒がやわらくなるって話題になりましたよね?

能作先人の知恵って、本当にすごい。どうやって知ったのか、お酒がまろやかになるんですよ。自分も初めて実際に錫の器で飲んだ時にびっくりした。そういうことも合わせて魅力や使い方を伝えていく必要がありますね。

祈りの道具の職人と考える素祈 ① 祈りの道具の職人と考える素祈 ① クリーミーな泡立ちを楽しめるビアカップ

宮嶋伝統技術を使った商品で、先人の力を借りることができる。その知恵で暮らしが豊かになっていくことが改めて求められているのかな、と思います。風鈴も、先人の知恵の1つですよね。無くても困らない。でも音を聞くことで涼しさや季節を感じたり、やすらぎを感じたり。そういうものが、便利さや合理化の裏で失われていたのかもしれません。私たちが扱っているご供養も同じ気がします。

能作一般の方も、ご供養や祈ることって、どうやってやっていいのかわからないという人も多いんじゃないだろうかと思います。だから道具もよくわからない。選べない。今そういう状況で、変な話、仮に海外の有名ブランドから仏具が出たら、買う人は多いんじゃないかって感じることがあります。使い方とか背景はもちろん、PRの仕方がうまいところが売れてしまうという意味で。「あり方」まで踏み込んで発信して、それを芯に価値のスタイルまで提案できるかどうか。テーブルウェアや日用品は海外にも取引があり、海外の企業ともかかわっているけれど、むこうはPRがすごい。日本の品質や、デザイン性に劣っていても、自分たちに自信をもって、「どうだすごいだろう」って堂々と言うんです。日本にはそれが無い。謙虚と言えばそうですが、魅力を伝えるという意味では非常にもったいないです。

宮嶋そもそも、祈ることさえ求められているのかなってところから心配です。

能作仏壇もこのままだと本当に無くなってしまうかもしれませんね。もの以上に、スタイル提案が売る人の役目で大きなものになっていると思います。

Profile

  • 能作 克治

    能作 克治(のうさく かつじ)

    株式会社能作・代表取締役社長、
    金属溶解一級技能士。
    1958年福井県生まれ。
    大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、
    大手新聞社カメラマンを経て能作に入社。
    2002年より同社代表取締役社長に就任。
    2016年藍綬褒章を受章。

    株式会社
    能作

    1916年創業。
    伝統工芸である鋳物メーカー。
    直営店全国13店舗を抱える
    能作ブランドは、
    「能作の錫製品」として
    富山県推奨とやまブランドの
    認定をはじめ日本デザイン賞、
    グッドデザイン賞など
    多くの賞を受賞している。
    https://www.nousaku.co.jp/